弁護士事務所をあとにすると、すっかり暗くなっていた。
松田さんは都合で家に帰らなくてはいけないということでここで別れる。
俺と磯野はお腹が空いたため2人でご飯を食べにいくことにした。
先ほどの弁護士への相談の最中、衝撃の事実が判明。
労働時間の最重要証拠となるであろう俺と磯野のタイムカードの写真データを松田さんが消去してしまっていた。
磯野とご飯を食べながら、事は急を要するとの意見で一致し、夜が深まるのを待って誰もいない会社に潜入し捜索することに。
23時、会社に到着。
電気がついている。
まだ誰かいるみたいだね。
これだからブラック企業は┐(´д`)┌ヤレヤレ
しばらく付近に身を潜め様子を見ることに。
30分ぐらい待っていると電気が消え、人が出ていく。施工管理部門の課長だ。
車に乗り出ていくのを確認。
いざ!
潜入、捜索。
ナンバーロックを解除。
社内へ。
電気は必要最小限だけ点ける。
何故自分の勤めている会社なのにこんなにコソコソするのか?
それはこの日、俺と磯野は休みでありこんな時間に会社にいるのはおかしいのだ。
しかも当然スーツでは無く私服。もうこれは仕事がたまっててとか言い訳が一切きかない。
23時30分とはいえ、まだ現場から会社に戻っていない社員がもしかしたらいるかもしれない。
さっきの課長はお腹が空いたので夜食を食べに行っただけで、また仕事をするために戻ってくるかもしれない。
哀しいかなブラック企業とはそういうものなのだ。
それに仕事とは限らず、誰かが忘れ物を取りに来たり、仕事終わりに近くで1杯飲んでいた社員が帰りがてらトイレを使用しにくるかもしれない。
しかし今日決行しなければ。
会社に時間を与えれば証拠を隠されてしまうかもしれない。俺達がこの会社にいられる時間ももう僅かかもしれない。もう機会は訪れないかもしれない。
松田さんから聞いておいた場所に向かう。
総務課長の席の後ろのキャビネットの引き出し。
(何故この場所を松田さんが知っているか。それはタイムレコーダーにある全員の一月のタイムカードを〆日に回収し総務部で給与計算をしているが、そのタイムカードの行き場を毎月注意深く監視していたのだ。)
ガコッ。
聞いていた通りだ。鍵がかかっている。
しかしこれは折込済みだ。
鍵の場所は、隣の小さいキャビネットの引き出しの上から2段目。
鍵を取り、鍵穴に差し解錠。
引き出しを開ける。
ここにダンボール箱に入った全員分の入社時からのタイムカードがあるはずだ、、、。
磯野:ない!
俺さん、無いよ!
俺:マジか。磯野、これはもう無いかもしれないな。
磯野:やばくない?
俺:とにかく周りを探そう。
見渡すといくつかダンボールが置いてある。
手当たり次第開けていく。
しかしどれも違う。
もう棚からなにまで手当たり次第に探す。
俺:あっ!あれは?
あると思って開けたキャビネットの上、背伸びして手がやっと届く位置にダンボール箱が乗っている。
慎重に箱を取り、フタの部分を開ける。
28年、27年と書かれた大きな分厚い封筒が2つずつ計4つ。
中を見る。
磯野:あった!
これだ!
灯台下暗し。いや、灯台上暗しだ。
中には各人ごとに輪ゴムで分けられたタイムカードの束がごっそり。
もうどれぐらい時間が経ってしまったであろうか。とにかく急がなければ。
複合機でコピーを取ったら何かしらデータが残ってしまうかもしれない。
証拠保存
デスクにタイムカードを並べて、スマホで1ヶ月ごとパシャリ、パシャリ撮っていく。
手が震える。ぶれる。焦りもありなかなかうまく取れない。自分にこんなにも度胸がないとは。
年下の磯野はどうだ、サクサクと撮りすすめているじゃないか。
悟られないように俺も深呼吸しながら撮っていく。しかし、俺が半分撮り終わったところで、
磯野:俺さん!自分の分は全部終わったよ!
早い∑( ̄Д ̄;)
俺:そしたらあれだ!上司の分も撮って!部長のタイムカードも撮っておけば少なくとも部長が一緒にいた時間は管理されてた証明になるかもしれないから!
磯野:そうだね!撮っておこう!
こうして、過去2年分のタイムカードを無事撮り終え、全てを元通りにして退散したのだった。
次回
いよいよ、
会社との正面切っての話し合いへ。