第1 解雇が違法であること
1 原告の受注件数が少ないと言えないこと
⑴ 原告の業務が高所得者層向けの注文住宅の設計及び営業であったこと。
被告は、この点について、否定するようである。しかし、被告のホームページに、「3階建て専門」「重量鉄骨住宅・3階建て住宅」などと記載されている。さらに、原告の名刺にも、「都市型3階建専門」と記載されている。
3階建て以上で重量鉄骨を用いる住宅は、通常、単価が高いため、高所得者層向けであることは明白である。そして、単価の高い住宅が容易に受注できないことは、市場原理から明らかである
⑵原告の営業成績は決して悪くなかったこと
被告の営業設計部員の受注実績が記載された販促資料によると、半期に1件も受注できないことも珍しくなかったことは明白である。後藤部長でさえも平成26年4月から平成27年5月まで14か月連続で1件も受注できなかったのであり、原告が11か月連続して受注がない期間があったことは、原告が被告も認めている通り前期に3棟、前々期に1棟受注していることも考慮すると責められるべきではない。
また、販促資料によると、売上成績についても、原告は、他の社員と比べて悪かったとは言えない。この点、被告は、原告による受注が、全て後藤部長らのフォローがあってのことであったと反論するが、経験豊富な上司が部下の受注をフォローすることは、営業において当然である。そもそも、上司である後藤部長が同行するかどうかについて、原告に決定権限はないのであり、後藤部長がフォローしたことを理由に、原告の成績が悪いと言うことは不当である。
2 原告が部下の育成をしていたこと
被告は、そもそも部下の育成は原告の業務ではないと述べるが、解雇理由書において、被告自身が「部下育成に期待し主任に昇格させた」と述べている通り、部下育成は被告により指示された原告の業務であった。
被告は、原告が部下の育成をしていなかったと主張する。しかし、平成28年3月◼日の日報において、後藤部長は、「ご苦労様。なかなか大変なお客様でしたが、後輩を指導し良く契約に持ち込んでくれました。感謝します。今後も良き手本を示してください。頼もしく感じています。」とコメントしている。また、平成28年7月◼日の日報において、後藤部長は、「ご苦労様。契約アシストご苦労様。」とコメントしているが、原告による後輩社員のアシストを後藤部長が評価していたことが分かる。原告は、解雇直前においても、後輩社員の日報にコメントをするなどしていたし、訪問営業への同行もしており、部下の育成やフォローをしていたことは明らかである。仮に、被告が解雇理由書中で述べる通り、原告が赤字社員の見本になっていたのであれば、原告に対して、部下の育成やフォローの業務をさせないはずである。
3 原告が展示場での集客イベント考案、運営業務をしていたこと
被告は、原告が展示場での集客イベント考案、運営業務、メイン商品の仕様改訂業務を担当していたことを否認し、ミニイベントの開催など、原告が自らの営業活動の一環としてスポットで行ったものがあるに過ぎないと述べる。
集客イベント考案、運営業務は、原告が被告から担当業務として指示されていたものである。
例えば、被告は、平成28年1月◼日と翌◼日、集客イベントを開催した。そして、原告の平成28年1月◼日と翌◼日はもちろんそれ以前の日報を見ると、原告がイベント準備やリハーサル、来場対応等のイベント考案、運営業務をしていることが分かる。原告の平成28年1月◼日の日報には、後藤部長が「ご苦労様。良いイベントになりそうな予感あり。期待しています。」とコメントし、高評価しているほどである。
他にも、平成28年4月◼日頃から同月◼日まで、春のキャンペーンを開催した。そして、原告の平成28年3月終わり頃からの日報を見ると、原告がイベント検討、イベント準備、イベント運営をしていることが分かる。
また、原告は、イベント運営業務について、展示場運営会社が書く出店会社を呼んで開く運営会議に出席していた。
以上より、原告が展示場での集客イベント考案、運営業務をしていたことは明らかである。
4 原告が不動産部の業務もしていたこと
被告も不動産部門長が退職したことは認めているが、そのために、分譲地、建売住宅の販売に関連する業務を行う者がいなくなった。
そのため、原告は、分譲や建売の現場で待機し、案内や販売活動を行っていた。
5 被告が平成28年10月7日の話し合いが決裂するまでは解雇を考えていなかったこと。
原告の平成28年10月3日の日報を見ると、後藤部長が、「ご苦労様。〇〇様:早く面談し動かしたいところ。PUSHしよう。」とコメントしている。この通り、被告は、原告に、顧客に対する営業を進めるように促しており、この時点で解雇の意思がなかったことは明らかである。また、仮に被告が主張する通り、原告の成績不良が解雇の理由であるならば、そもそも新たな雇用契約書を被告が原告に交付することはなく、このことからも、被告は元々は原告を解雇する予定がなかったことが裏付けられる。
それにもかかわらず、被告は、原告との平成28年10月7日の話し合い決裂の翌日に解雇通知をした。このことからすると、後記のとおり、10月7日の話し合いで、原告らには新しい雇用契約書に署名押印する意思がないこと、残業代を遡って支払うことを求める意思があることが明らかとなったため、被告は、原告を解雇したのであると強く推認できる。
6 結語
以上のとおり、被告の主張する解雇理由は客観的に合理的なものとは到底言えない。また、百歩譲って仮に客観的に合理的な理由があるとしても、被告は、何らの指導をしないまま、原告を突然解雇したのであるし、原告がしてきた貢献からして、解雇は社会通念上相当とは言えない。
第2 退職願の撤回、退職の意思表示の錯誤無効について
1 被告の解雇通知は、退職願に対する承諾と評価できないこと
原告は、平成28年10月7日付退職願により、有給休暇と代休消化後の雇用契約の合意解約を申し込んでいるところ、仮に、これに対し、被告が、有給消化と代休消化後の雇用契約の合意解約を承諾したのであれば、確かに、有給消化後と代休消化後の雇用契約の合意解約という効力が生じる。
しかし、被告が同月8日にしたのは同月9日付での解雇であり、原告の上記申し込みに対する承諾ではない。そもそも、解雇とは、雇用契約を一方的に解除するという意思表示であり、雇用契約の合意解約の申し込みに対する承諾とは法的性質を大きく異にする。
したがって、被告の解雇通知は、原告の雇用契約の合意解約の申し込みに対する承諾とは言えず、合意解約の効果は生じていない。
そのため、雇用契約の合意解約の申し込みの撤回は有効であり、現在も原告と被告の雇用契約が継続していることは明らかである。
2 退職願による雇用契約の合意解約の申し込みは、錯誤によるものであり、無効であること
⑴ 退職願を提出した平成28年10月7日に退職勧奨があったこと
被告は、原告に対し、定額残業制を入れた新たな雇用契約書に署名押印しないと雇用継続しないことを伺わせる発言をしたことを否認している。
しかし、原告と別訴原告松田、別訴原告磯野が、被告代表者と被告管理部の課長、被告営業設計部の後藤部長と平成28年10月7日に話し合った際、以下のようなやり取りがあった。
すなわち、新たな雇用契約書では、従前の総支給額を変えず、賃金構成を変えて、定額残業代を設けることになっているところ、別訴原告松田が、被告代表者に対し、そのような変更に反対し、従前の総支給額に追加で、定額残業代を設けることが妥当であると述べた。
それに対し、被告代表者は、「支払い能力ないんだけどもこれで全部につけないかんくなってくると、もうこれはもう話にならんわなぁ。こういうことはね。会社として運営できんよ。」と述べ、難色を示した。被告代表者は、「これ運営できなくなっちゃうじゃん。成果上げなきゃね。で、皆さんが成果上げてくれれば全然問題無いんだ。一月に2棟ぐらいあげてくれたら。何の問題もないでー。」と、月に2件の受注をするという到底不可能な条件を持ち出し、別訴原告松田の考えに難色を示した。
さらに、被告代表者は、過去に遡って残業代を支払うつもりがあるか尋ねられた際、「ないないないない。気持ち的にもないねそれは。」、「それはやっぱり裁判とかそういうものにまかせなしょうがないんじゃない。」と述べ、裁判をして解決をするしかないとの考えを示した。別訴原告松田が、被告代表者に対し、原告らとしては、過去の残業代について、労基署や裁判の場でないと、話をしてもらえないのかを尋ねたところ、被告代表者は、「そう思うよ。うーん。」と回答し、労基署や裁判の場での解決しかないと述べた。
被告代表者は、「そういう間柄で働いてるっちゅうのもなんかおかしな話だねえ。おんなじとこで。利害が反対しとるもんで。」と述べ、原告らの雇用を継続することに疑問を呈した。
以上の被告代表者の発言は、原告らが新たな雇用契約書に署名押印しなければ、退職したほうが良いと促す内容であると考えるほかなく、退職勧奨であることは明白である。
また、被告が、10月7日の話し合いの翌日に解雇通知をしているという時系列からして、10月7日の話し合いの場で被告代表者らから退職勧奨があったことが容易に推認できる。
⑵ 裁判例について
原告は、この裁判例により、退職の意思表示に錯誤があれば、同意思表示は無効になることを示したのである。
なお、裁判例は、退職願を提出しなければ解雇処分にされると誤信して、退職願を提出したという事案であり、本件も、原告が10月7日の話し合いにおける被告代表者の解雇を伺わせる発言を受け、このままでは解雇処分にされると誤信し、解雇されるくらいであれば、有給消化と代休消化をしてから退職したほうが良いと考え、退職願を提出したのであり、共通している。
⑶ 質問書について
被告は、質問書の存在から、原告が被告における処遇に大きな不満を持っており、その結果として自主的に退職願を提出したと述べる。
しかし、質問書の内容は、労働法規や被告の就業規則の定めに照らせば正当な権利主張であり、当然に是正されるべきものであるため、これらの質問の存在をもって、原告が被告における処遇に大きな不満を持っており、その結果として自主的に退職願を提出したのであると推認することはできない。
第3 結語
以上のとおり、被告による解雇は無効であり、雇用契約の合意解約も成立していないため、原告は、速やかに原告の被告の従業員たる地位が確認され、バックペイが支払われることを求める。
以上