前回からのつづき
解雇の予兆
次の日、朝はモデルハウスに出勤。
PCの電源を入れてメールチェック。
後藤部長からメールがきていた。
内容は折衝中の顧客について情報をまとめること。つまり引き継ぎの準備の指示だ。
引き継ぎが終わるまでまだ少し会社に残れそうだと感じた。
しばらくして携帯が鳴る。磯野からだ。
(磯野と松田さんは俺とは別のモデルハウスにいる。)
俺:もしもし、どうした?
磯野:俺さん、僕達、どうやらやっぱり解雇になりそうです。
俺:何で?今日引き継ぎについてメール入ってたじゃん?
磯野:こっち出社して、本社のプリンター、複合機にアクセスして印刷されたものを見ていたら、その中に3人分の解雇通知書があったんです。
(実は会社の動きをさとるため、以前からときおり複合機にアクセスし情報を収集していた)
俺:そうか、分かった。もし呼ばれたら、必ず録音すること、解雇は不当で納得がいかないことを伝えること、解雇理由証明書を出してもらうこと。
磯野:うん、分かってる。松田さんも同じこと言ってたから大丈夫。
俺:あとは、とにかく時間が無い。証拠になりそうなものはなるべくUSBに入れて、貸与されているノートPCのデータはなるべく消そう。
磯野:分かった。じゃあ何か動きあれば連絡するってことで。
それから、あまり時間が経たずに今度は後藤部長から電話。
俺:はい。俺です。お疲れ様です。
後藤部長:俺君、メール見たと思うんだけど、やっぱり引き継ぎの準備はしなくていいから、そっちの机や私物を片付けて、昼までに本社に来るように。
俺:はい。分かりました。失礼します。
データの抜き取りと削除
もう分かっていたので驚きは無かった。
今日これから確実に解雇されることが確信に変わっただけだ。
それよりも今の心配はPCのデータを抜き取ること。ほとんどは自分のスマホに移してあったが、メールの送受信のデータだけまだ出来ていなかった。日々の業務日報はメールでやりとりしていたため、このメールデータは今後の重要な証拠だ。かなりまずい。
急いで自分の席を片付けて、モデルハウスにいる同僚に短い別れを済ませ、車に乗り込む。コンビニへ。10GのUSBを購入。
モデルハウスと会社の間に自宅がある。
自宅に寄りノートPCを開き、データを移行する。1時間はかかりそうだ。
LINEで松田さんと磯野に、本社に行ける時間を連絡し、時間を合わせてもらうようにした。
顧客データ以外の全てのデータを削除する。
インターネットブラウザまでも消去(·∀·)
(インターネットブラウザの閲覧履歴から仕事に関係の無いサイトを見つけ、私的にネットサーフィンし仕事をサボっていたとかこじつけられる例があるということを弁護士から聞いていた。)
自分達に有利になるものは抜き取り、不利になる可能性のあるもの、こちらの情報を与えてしまう可能性のあるものは微塵も残さない。
なんとか午前中に事を終え、いざ本社へ。
クビ宣告
本社に入ると、本社にいる他の社員もただならぬ雰囲気を感じ空気がピリついていた。
山下課長:1人づつ順番に話をするので、呼ばれたら応接室に来てください。
まず松田さんが呼ばれた。
10分ほどして磯野が呼ばれた。
そしてまた10分ほどして最後に俺が呼ばれた。
俺:失礼します。
社長と山下課長がいた。
社長:まあ座れ。
山下課長:早速ですが、昨日緊急で幹部会を開き対応を決めました。こういうことになりました。
1枚の紙を差し出してきた。解雇予告通知書だ。
俺:これはどういうことでしょうか。
山下課長:そこに書いてあるとおり、明日付けで解雇します。
俺:納得がいきませんね。不当解雇じゃないですか?解雇理由は何ですか?
山下課長:就業規則の違反です。解雇規定に該当するので解雇します。勤務態度、成績の著しい不振ということです。必要があれば就業規則のコピーをお渡しします。
俺:コピーはいただきます。あとこれは解雇予告通知ですので、詳しく理由を付した解雇理由証明書を出して下さい。労基法で求められたら会社は出すことになっていますので、今無いなら今日とは言いません。
山下課長:分かりました。どんな書式か分からないので、出さなければいけないものなら作成して郵送します。
あと、そこに書いてある通り解雇予告手当として一月分の給料を振込みます。
俺:いりません。解雇を認めませんので受け取りませんし、振り込まれても困ります。もし振り込まれても返却します。
山下課長:会社としては振込みます。解雇が納得いかないのであれば出る所に出ていただいて構いません。
俺:分かりました。そうします。
山下課長:ではこの後すぐに本社の席の片付けと、会社から貸与しているもの全てと、健康保険証を返却して下さい。
社長:今日は片付けたら、もう仕事しずに帰っていい。引き継ぎも不要だ。明日から出社しなくていいぞ。
俺:そうですか。解雇は納得いきませんが。
仕方ありません、然るべきところで訴えます。
社長:俺君さぁ、無理してないか顔色が悪いぞ?
俺:全くそんなことはありません。ただ寝不足なだけです。
社長、きっと後悔しますよ。
それでは。
そして俺達は一斉に席を片付けはじめた。
周りの社員は起きていることに気付きはじめ、驚き言葉を失っていた。
片付けが終わり、3人で皆に別れと感謝を告げる。中には涙を流してくれる人も。
俺:しばらくしたら戻ってくることになるかもしれませんよ。
そう言い残し、タイムカードに最後の打刻をし、忘れずにちゃっかりコピーを取り、約3年勤務した会社を後にした。
本当の闘いはここからだ。
つづく。