【パタハラ裁判やってます】〜本人訴訟、しあわせのチカラに〜

全方位型労働被害者、元社畜による実話を元にした実話です。ブラック企業で働いている方、これからブラック企業と闘わんとしているあなたへのバイブル

第68話 作為的な不作為 ひとりぼっちユニオン編

平成不況

『具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約の遡及適用により処分又は変更することは許されない』

同様の最高裁判例が3件も出ているに関わらず、行政文書の開示請求をしたがこれを解釈したり、踏襲した行政通達はついに見つからなかった。

うーん、通常こういうことはあまり考えられない。しかも労基署や労働局においては、時々行き当たりそうな問題である。

調べているうちに、一つの答えらしきものに行き着いた。

時は平成14年に遡る。

民間企業が不況苦しむ中、各地域を勤務する公務員の給与は地域の民間給与に比べ高いのではないかと人事院が公務員の給与減額を勧告し、公務員から猛反発が巻き起こっていた。国会では与野党で議論が白熱。

公務員の場合には、人件費も予算単年度主義があるため、実質的に給与を遡って減額する(遡って減額することは現実的には不可能なので、期末手当で差し引くという手法を取る)必要があり、これが猛反発の原因になっていた。

人事院勧告

平成14年9月6日

第154回国会 総務委員会第30号

委員:勧告の主な内容という一番最後のところに、実施時期につきましては、不利益不遡及原則を踏まえ、四月に遡及しないこととしております、一方、年間における官民の給与を実質的に均衡させるため、不遡及部分については、十二月の期末手当の額で所要の措置を行うこととしておりますという御報告がございました。 これにつきましては、いわゆる減額調整ということにつながっていくと思います。この点につきましてはいろいろな議論がございます。一点は、労働組合は、この点につきましては違法性の疑いが高いということで、既に総裁や大臣の方にいろいろな申し出があると思います。 いろいろ調べていきますと、平成八年に朝日火災海上保険事件という最高裁の判決がございます。これはもちろん公務員と民間ということでその差はあるものの、この最高裁の判決の結論は、具体的に発生した賃金請求権を事後に変更された労働協約や就業規則の遡及適用により処分または変更することは許されないという結論になっております。 今回の、先ほど御指摘をした、一方で不利益不遡及の原則を踏まえるというふうなことを言いながら、不遡及部分については十二月の期末手当の額で所要の措置を行う、実質、ボーナスの部分で調整をしちゃうんだ、さかのぼって減額をするという趣旨でまずいいんですよね。

政府参考人:不利益不遡及の原則というのは、法律を一通り勉強した人間には非常に大切な法原則だということは心得ているというふうに思います。  ただ、今回の場合に我々がよく考えましたのは、プラスの勧告のときには四月にさかのぼって差額分を支給する、しかしマイナスの勧告のときには四月から、恐らくことしの十一月になるでしょうけれども、十一月ごろまでの差額分というのはそれは知らない、もらい得だということを国民が果たして納得するだろうか、そういうような官民の給与の均衡というもので国民が納得するだろうかということを考えますと、そうではないだろう、そうしますと、どういうような方法によってそこの調整をしていくかということを真剣に考えなければならないということでございました。  今、朝日火災海上保険の最高裁判決の話もございましたけれども、昨晩その判決を読んでみました。あれは明らかに遡及適用をしておるわけでございますし、またあそこには官民均衡というような要素もございませんでした。  したがいまして、私たちは、遡及適用はしないけれども国民が納得するような調整というものを考えた、しかも法律上それが通る方法というものを考えて今回勧告をさせていただいたということでございます。

平成14年11月7日 第155回国会 総務委員会 第3号

国務大臣:これは、人事院勧告の中身でこういう措置をやってほしい、こういうことでございますが、御承知のように年間給与で民間準拠なんですね、年間給与で。したがいまして、既に払ったものを取り上げるということじゃなくて、これから払うものについて減額調整をする、年間給与として合わせる、こういうことでございまして、これは私は、不利益不遡及の原則にも当てはまらないし、法律上は十分説明はできることだ、こういうふうに思っておりますし、内閣法制局も同じような見解だと聞いております。

委員:やり方は、改正後の手当から調整するということですけれども、現実に調整をする額というのは、先ほども言いましたように、一人ずつ計算をして、四月にさかのぼった額と全く同じものを引き去るということなんですね。これは一つ確認しておきたいと思います。

国務大臣:そのとおりでございまして、今度の新しい給与表といいますか、今回の給与改定によって額が減る四月から十一月のものについては、十二月の期末手当で調整する、こういうことで、今言いましたように、年間の給与で民間と合わせる、こういうことでございますから、これから払うものについてそれを減額することは、不利益不遡及の原則には当てはまらない、こう考えております。

こうして改正給与法は、平成14年11月22日に成立し、実際に期末手当(公務員の冬のボーナス)から4月から11月までの減俸給分が調整、減額されたのだった。

この論争は法廷に移り、平成18年まで争われたようで、一般職地方公務員について不利益遡及適用が許される場合もあり得るとした大阪高裁平成18年2月10日判決(労働判例910・12)で決着している。 同判決は、地方公務員の給与に係る立法においても,不利益遡及適用禁止の原則は適用されるが、例外的に、特段の合理的理由ないし公共の福祉を実現するための必要性がある場合は、その必要性の程度、侵害される権利の内容、侵害の程度等を総合的に考慮して、不利益の遡及適用が許される場合もあり得ると判示している。

作為的な不作為

つまり国として不利益不遡及をしてきた過去があり、また同様のこと(公務員の給料を下げる必要性)が生じた場合を考慮すると、下手に何か残すと追求されたり使われたりするので、この法理について行政として言及や判断を残すのは適切ではないということなのだ。 だから行政文書や通達はどれだけ探しても出てこないだろう。魚の放流されていない釣り堀で釣りをするようなものだ。仕方がない。

労基署も急に打ち切りしたがっているのも、何か不穏なものに触れたのに気づいて逃げたがっているのかと勘ぐってしまう。

とりあえず労働協約の不存在が確認できたのは、大きな成果だ。 これを武器に民事でとことんやろう。

つづく。

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