指定の時間に、応接室に行くと執行役員と部長が待っていた。
執行役員:今日来てもらったのは、昨年度の人事考課のフィードバックを伝えるためです。 君にとっては、面白くない話かもしれないけど。
元社畜:はい。
執行役員:今日は役員としてではなく、腹を割って君と話をしたいなと思っているから、そんなに構えないでほしいし、録音とかしてるんだったらやめてほしいな。
元社畜:わかりました。今も録音していませんし、しないこと約束します。
執行役員:2022年度の君の評価としては、絶対評価が2、相対評価はC −となります。※
きっと納得しないしいろいろ言いたいことがあると思うけど、俺が決めたわけではないし、会社としての決定なのでとりあえず伝えます。
※絶対評価は5段階評価で昇給幅に影響する。相対評価は11区分で賞与額に影響する。 相対評価C−は、下から2番目の評価。 ちなみに、2021年度の元社畜の評価は、絶対評価3、相対評価B+(上から5番目)だった。
元社畜:ええ、納得いきませんね。
執行役員:だけど、営業数字としては仕方ないところあるよね。
元社畜:下期開始から3か月育休を取得していますし、復帰してからは営業から外されています。当社もそうだし、担当先も売上は超下期偏重なので、上期だけの数字で評価つけたらそうなりますよ。育児休業期間が全く考慮されていない不当な評価ですね。 通期でみたら、得意先の売上は前年の数字を超えていて、目標100%近くになっているはずですが。
執行役員:けど、上期が悪いし、下期は後任者の成果でしょ。
元社畜:その日売りの仕事しているわけじゃないので、下期の売上は、僕が育児休業前に受注していた部分がかなり含まれるわけですし、復帰後も同じ得意先担当の内勤にされて仕事していたわけですから、通期の数字で評価されないと不利ですよ。
執行役員:君が会社に対して、いろいろ反発している中で、最終的に良い評価がでると思うか?
元社畜:評価の中にそういった恣意的な感情が含まれるということですかね。 業務に関する考課とは直接関係ないことで評価するなら、人事考課の公正、公平性が歪むと思いますが。
執行役員:とはいえね、そういう姿勢的なところも勤務態度として評価の一つとも言えるわけだからね。
元社畜:これ以上この場で言っても無駄だと思うので、これ以上どうこう言いませんが、ちょうど今訴状書いている途中なので、今回の不当評価の件も内容に入れようと思います。
執行役員:おまえ、訴訟とかやめろよなぁ。 本当にもったいないよ。これは、前の部署がつけた評価で、これから君の評価をするのは、俺とここにいる部長だよ。俺らは、この数ヶ月の君の働きぶりを見て、優秀な奴だな思っている。ちゃんと評価する。これは嘘じゃなく。なぁ、部長。
部長:俺は執行役から会社と君がこんな揉めているなんて最近知ってびっくりしてる。
君がいなければ、新部署でこんなに早くいろいろなことが進むことは無かったし、これからも重要な戦力だと思って期待しているのに。
執行役員:な、もったいないって。そのエネルギーをもっと別のところに注げよ。訴状なんて出したら終わりだって。将来なくなるぞ。
元社畜:まるで訴状を出したら、報復人事がされるような言い様ですね(笑)
執行役員:いやいや、俺はそんなことするつもりないけども、会社を訴えるなんてことになったらもう普通のことじゃないから。俺らがコントロールできる話じゃなくなるって。
元社畜:裁判を受ける権利は保障されているので、話し合いで解決しないなら、裁判所に訴えるって普通のことだと思いますけど。会社も、もし売掛金回収出来なかったら訴えますよね。普通のことじゃないですか。会社間ならそれは普通で、会社対従業員なら異常になるんですか。
執行役員:俺らが守ってあげられない状況になれば、そういう風には考えない人達が、何するか分からないんだよ。今あげた拳を引っ込めるならまだ間に合うよ。俺らが悪いようにはしないから。
元社畜:その時はその時でいいですよ。この会社にしがみつかなきゃどうしても生きていけないってわけでもないですし。
執行役員:そうかもしれないけどな、俺はそんな悪い会社でもないと思うぞ。
元社畜:立ち位置が違えば見え方変わりますよ。波風立てない人の成功例なんですから、そりゃ良い会社に見えますよね。育休後の不利益扱いも、手当の不利益変更も、今、見過ごせばもう今後やりたい放題になると思うので誰かがやらないと。
執行役員:君は正義のヒーローか。今、君を応援してる奴がいるとしても、影に隠れて、やれやれって面白がってるだけだろ。そんなもん背負う価値あるか。そういう奴らが自分は傷付かずにおこぼれ預かっても感謝なんてしない。他に不満を持った誰かがやるのを待ってりゃいいだろ。
元社畜:別にヒーローになるつもりなんてないですけど、誰かにとっての、誰かやってくれないかなぁの、誰かが僕だって話です。
執行役員:いつ訴状出す予定か分からないけど、そんなすぐじゃないだろ。君のことを想って言ってる。こんなことしなければ、君のことは買ってるし、話してみてもいい奴だって分かる。これは役員や部長としてではなく、親戚のおじさんの助言だと思ってさ、一度考えてくれないか。今答え出さなんて言わない。持ち帰ってゆっくり考えて。
元社畜:あ、無理です。✋
持ち帰ったりして、変な期待感持たせて、せっかく君のことおもんぱかって言ったのに裏切られたみたいにあとで気を悪くされたり、変な空気になっても嫌なんで、今結論出しておきます。僕の気持ちは変わりません。
執行役員:変わらないんだよなぁ。それも分かってる。けど考えがかわったら教えて。
元社畜:だから変わりませんって(笑) 仕事はちゃんと労働契約に従ってきちんとやりますし、特にこれで手を抜いたりすることもないので今まで通りよろしくお願いします。ではこれで失礼します。
しかし、直属の上司にまでいろいろ知れちゃったってのは、少しやりにくさあるなぁ。
つづく